• ©黑田菜月

ムニ
『ことばにない』後編 “Not in Words”②

作・演出:宮崎玲奈
2023年11月9日(木)-19日(日) 全12ステージ@こまばアゴラ劇場

あらすじ

20代後半を迎える朝美、かのこ、ゆず、美緒は元高校演劇部であったことを共通点に、友人関係にある。ある日、顧問の先生の訃報と残された草稿が発見される。「わたしはことばそれ自体になりたかった」「欲望は見えなくされているだけだ」と書かれたそれは、完成された物語ではなく、レズビアンであるというカミングアウトを含んだ未完成の言葉の集合体だった。4人は残された言葉を聞き、それぞれの欲望について語りはじめようとするが。

恋人の花苗と距離を置いたかのこ。花苗の撮った人生の幸せな時間、奇跡みたいな瞬間を切り取った映画は溜まっていく。長年付き合っていた恋人のプロポーズを保留する朝美、地元にいる両親の様子を見に時折帰省するゆず、何かのメンバーになりたかったとこぼした美緒とは、連絡が取れなくなる。

困難さの中で、それぞれの本当を、隠された欲望を求めていく、レズビアンの女性を中心とした4人の女性の物語。

出演

石川朝日
浦田すみれ
黒澤多生(青年団)
田島冴香(FUKAIPRODUCE羽衣)
豊島晴香
南風盛もえ(青年団)
藤家矢麻刀
古川路(TeXi’s)
巻島みのり
ワタナベミノリ
和田華子(青年団)
声の出演:立蔵葉子(青年団/梨茄子)

作・演出:宮崎玲奈
空間設計:中谷優希
舞台監督:黒澤多生(青年団)
舞台監督補佐:水澤桃花(箱馬研究所)
照明:緒方稔記(黒猿)
照明操作:伊藤拓(青年団)
音響デザイン:SKANK/スカンク(Nibroll)
音響操作:吉田山羊
衣装:坊薗初菜(青年団)
演出助手:伊藤拓(青年団)、新田佑梨(青年団)
宣伝美術:江原未来
制作:上薗誠、河野遥(ヌトミック)、星野花菜里(コンプソンズ)
当日制作:青柳糸
Special thanks:青本瑞季、金子鈴幸
ムニタイトルメンバー:伊藤拓、黒澤多生、南風盛もえ、藤家矢麻刀、宮崎玲奈、上薗誠


〈楽曲〉
「野球より馬よりロッキーより大事なもの」
作詞・宮崎玲奈/作曲・SKANK/スカンク
「四人でバンドやりたかった」
作詞・宮崎玲奈/作曲・SKANK/スカンク


企画制作・主催:宮崎企画
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]
協力:黒猿、青年団、TeXi’s、Nibroll、ヌトミック、箱馬研究所、FUKAIPRODUCE羽衣、プリッシマ、有限会社ブレス・チャベス事業部、(有)レトル

INTRODUCTION

『ことばにない』は2019年から約4年間執筆中の戯曲(演劇の脚本のことを戯曲と言います)です。上演時間は前後編を合わせると約8時間程度の作品となっています。

はじめに、なぜこの物語を書くことになったのか、長い作品になったのか、について書きます。日本語で、レズビアンの女性が主人公の物語を書きたい、という思いが長らくありました。単なる表象だけではなく、アイデンティティについてもきちんと描くということを行いたかったのです。描こうとしているのは、日本語の物語の中で、あまり描かれてこなかった人たちの姿や言葉です。省略して見やすい物語とするのではなく、一人一人の人物の内面まで丁寧に描きたかった。

演劇では内面は描けない、想像させるのだ、と言われています。演劇の持つ普遍性とアイデンティティを語ることとは対極にあることだとも思います。作家としての志向と変えられない個人のあり方の交差するところからこの作品ははじまりました。したがって、どなたかを取材して、本作に取り組んでいる訳ではありません。一人の生活者としての、差別的な発言を投げ掛けられ落ち込んだり、おしゃべりをして楽しく過ごしている日常が創作の背景にはあります。

前編では呪いの可視化(問題提起)、後編では呪いを解く(問題解決)を指針としています。女性であり、同性愛者であるアイデンティティについて、2023年の現在地としてのフィクションの力をもって聞き、語ることを目指します。

最後になりましたが、本作後編の上演時間4時間は、物語の中の一人一人を描くために必要な時間です。そのため、最初から最後まで4時間という時間を通して、作品を観ていただきたく思っています。作品内容に関しての事前のアナウンスの実施や、上演途中で気分が悪くなった場合等には、途中退場していただけるよう、導線も確保いたしますので、お声掛けください。腰が痛くならないようにクッションもご用意しています。途中休憩もございます。上演時間等に関しては詳細が決まりましたら、ムニホームページ、SNSにて細かくアナウンスしていきますので、何卒ご理解いただきますようお願いいたします。

これは、困難の多い時代を生き抜く人々の現在形の物語であり、物語からはじまるであろうそれぞれの日常へ向かう叙事詩です。ことばにない、ことばだけじゃない、それをわたしは演劇と呼んでいるのかもしれません。

2023年6月30日 宮崎玲奈

上演に向けての言葉

上演に向けての言葉 2023.11.1

昨年、わたし自身に色々なことがあって、演劇も、人も信じられない状態になった。山川紗代のように物語を書いて死ぬという選択肢しかないのではないかと、どこかでは思いながら後編を書いていた。精神の不調が舞台上にナチュラルに登場するのも、作者の実生活での文脈が大きい。そして、書ききった。

演出した『ことばにない』前編のカセットテープの音声を聞きながら、昨年のわたしはもう少し繊細で、臆しながら外に出ようとして、他者のことも集まりのことも信じていたが、様々な外側からの出来事に接するうちに、変わってしまっていたと気付いた。いつのまにか強くなってしまっていた。最終的に、一人で引き受けるしか道はないのではと思うようになった。

 

上演に携わる人々のお陰もあり、作品を創作する過程の中で、この作品ないし上演は、人を、演劇を、信じられなくなった人間が、もう少し他者を、演劇のことを、信じてもいいかもしれないと思う力を取り戻していく作品へと変容していった。演劇は薬ではない。この上演を観る人も限られているのかもしれない。けれど、まずは、目の前の今日の集まりを信じてみることから、この上演をはじめてみようと思う。

わたしなりのやり方で、生きることを続けてみようと思った、そんな作品です。

長丁場にはなりますが、最後までごゆっくりお楽しみいただければ幸いです。

宮崎玲奈 (タイトルメンバー:伊藤拓、黒澤多生、南風盛もえ、藤家矢麻刀)



⑴毎日新聞 東京夕刊2023.11.2※取材https://mainichi.jp/articles/20231102/dde/018/200/016000c

⑵朝日新聞 東京夕刊2023.11.9※取材https://www.asahi.com/articles/DA3S15788786.html

⑶朝日新聞 東京夕刊2023.11.16 ※劇評https://www.asahi.com/articles/DA3S15794232.html

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